コブクロ2.0?
長年第一線で活躍するアーティストにとって天敵なのが慣れと弛れ。いくらジャンルで立ち位置を確保しても、昔ほどCDは売れません。音楽業界全体が先細ってる今、積極的に新しいことを取り込もうとする者だけが生き残るんじゃないでしょうか。
その点、コブクロの戦略は大変合理的です。
活動20周年のアニバーサリーでベストアルバム。そろそろ初期〜中期のヒット曲が懐メロになる頃でしょう。それらを引っさげて全国ツアーを回るだけで、それなりに成功も見込めます。”守り”に入っても戦略としては十分オーケーはオーケーです。
しかし小渕&黒田のふたりは攻めます。
明らかにこれまでのカバーとは違う『サイレントマジョリティー』(欅坂46)を天下のMステで披露。
2018/11/30 コブクロ - サイレントマジョリティー - YouTube
ギター1本とループのみというストロングスタイルで、おっさんが若者に向けて支配への抵抗を諭す。ストリート時代を彷彿とさせるような好パフォーマンスは確実にアイドルファン層へとリーチし、SNSとの親和性が高いとは言えない従来のコブクロ像に一石を投じました。
その流れの延長としてなのか、再びMステに凱旋したのが今回のコラボ、ヒップホップユニット「HONEST BOYZ」と共演した『SAKURA feat. KOBUKURO』です。
https://www.jiji.com/jc/ent?p=g190098
代名詞とも言える名曲『桜』を大胆にもアレンジし、ラップで新たなリリックを追加。
SA,KU,RA~ (エスエィ、ケーユー、アルェー)、SA,KU,RA~ (エスエィ、ケーユー、アルェー)、SA,KU,RA~ (エスエィ、ケーユー、アルェー)
………
どう考えてもまぜるな危険のコブクロとヒップホップであり、実際かなりスベっていたかと(個人の感想)。
しかし当の本人たちはかなり楽しげにパフォーマンスしていて、小渕さんに至っては「これを機にラップを始める人がいたらいいですね」とタモリさんに話す始末。いや、いないでしょうと。
そもそもフォークやブルース、ジャスを得意とする黒田さんの歌は、タイミングを遅らせ若干タメを作る後輪駆動タイプ。いわばじっくり淹れて飲み時を待つお茶のような味わいです。
対してエグザイル派閥のメンバーを要するHONEST BOYZは王道和流ラップで、時流に沿ったトゲのあるリリックを放り込むのが特徴。
ラップパートの終わりと黒田サビの間の奇妙な間が気になるし、肝心のリリックがロングトーンに阻まれてよく聞こえない。互いのよさを消しあっているようにしか見えませんでした。珍しく小渕黒田のふたりが白シャツで合わせてきたのはファン的におっと思いましたが、一歩引いてみるとファンキーな兄ちゃんに脅されて歌わされてるようにしか見えません。カツアゲ桜。
ほんと、本人たちが楽しそう以外なんのメリットも見えなかったんですよね。
念のために言うとコブクロのふたりや三代目の兄ちゃんたち自身に非はないです。煎茶にチリパウダーを入れるのを許可したシェフが問題です。
コブクロ20周年の新チャレンジは今のところ一勝一敗と見えます。SNS映えするようなカバー、コラボ、生パフォーマンスはガンガンしてもらいつつ、一緒に料理する具材を間違わないようにだけ気をつけてもらいたいなぁなどと。
人が自覚せず輝く瞬間 part1
古代ギリシアの劇作家の言葉に
「舞台は烏の黒眼をあばく」(カラスの目は黒くてどこにあるかわからないことから、隠された才能のたとえ)
というものがある
というのはさっきコーヒー啜りながら考えたウソですが、舞台の上では才能やら本性やら人間のいろんなものが露わになるというのはたぶん本当。
僕はYouTubeで素人オーディション番組を見るのが好きだ。
そうすると、ごくごく稀に頭をハンマーで殴られるような、パソコンの前で口をあんぐり開けてコーヒーこぼしてしまうような才能を見つけてしまうことがある。
砂の中にキラリと光る宝石を見つけた気分になる。彼らは大抵オーディションを勝ち抜く。でも大衆に売れることはあまりない。結構かなしかったりする。
が、とにかく彼らの才能の一瞬の煌めきを知って欲しく、【独断と偏見で選ぶグッときたオーディションランキング トップ5】を紹介する。
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第5位
てつと
歌声のクセ度 ★★★★★
万人ウケ度 ★☆☆☆☆
マイク外しのキレ度 ★★★★★
すっごく正統派塩顔な大学生なのに、一度歌い出すとクセがすごい(©︎千鳥ノブ)
出だしの「Ah〜歌うことは〜」の時点だとヘタウマの類かと疑いつつ、盛り上がってくるBメロあたりから只者じゃない感が確信に変わり、ラスト大サビで完全に虜になったてつとワールドの被害者こと僕。
グッときたポイントは、呟くような優しい歌いかたと裏腹な大サビのパッション全開っぷり。
「情熱の彼方に」の部分で
じょぉぉぉうねぇぇつのぉぉ
と声が淀むのがたまらなく良い。
彼自身はソロと並行してぷらそにかというユニットも組んでYouTube・ライブ等活動してるみたいだけど、そちらではクセが控えめ。歌の上手い楽器も弾ける塩顔お兄さんと化しているので、もっとハジけて欲しいです(何様)。
第4位
Vincent Vinel
『Lose Yourself (Eminem)』
まさかその曲をそんな風に度 ★★★★☆
見た目とのギャップ度 ★★★★★
審査員のノリノリ度 ★★★★★
審査員が候補者の顔を見ずに審査することで有名なオーディション番組Voiceのフランス版。
審査員以外、観客含めた視聴者には動揺が広がるんですね、やや強めの斜視とあまりに歌いそうもないエミネムのラップソングという選択に。
でも彼はマジモンの天才で、あの複雑怪奇巧妙に練られたライムをことごとく自分のものにして見る者に届けてしまう。
歌唱力が飛び抜けてる訳ではないものの、圧倒的にアレンジがオリジナルなのが素晴らしい。他の動画にエミネムっぽく歌ってそれなりに賞賛されてる素人もいるが、個人的にはピッチが原曲とはだいぶ違ってもニュアンスを自分なりに再解釈してリズムにブチ込んでるVincent君の方が100倍好きです。
アレンジ力とフェイクが光るのでカバーアルバムなんか作って欲しい。即買いするから。
第3位
Grace VanderWaal
『I Don’t Know My Name(original)』
アメリカンドリーム度 ★★★★☆
ハスキーボイスフェチ度 ★★★★★
将来有望度 ★★★★★
AGTというアメリカのオーディション番組から。何年か前にダンサーの海老名健一が優勝してるやつですね。
少しアンニュイな表情でウクレレを携えてる少女、という時点で「かわいーい!下手でも応援しちゃう!」雰囲気の会場。
特筆すべきは衆人環視のオーディションに自分で作った曲で挑むその胆力であり、一歩間違えばダダ滑りしかねない。
がしかし、彼女はモノが違った。
ハスキーでメロウな歌声で観客の好奇の眼差しを黙らせると、曲名通り『自分の名前がわからない』状態から自我を確立させるためにもがくというメッセージを、しっかり観客のひとりひとりの心に直接届けていくかのようなパフォーマンス。
難曲をテクニカルに歌うでも、ハイトーンボイスで素人離れした歌声を見せつけるでもないのに、なぜか目が耳が離せない。きっとそれは彼女が偽りのないホンモノを歌声に乗せて届けてるから。
12歳とは思えない完璧なボーカルコントロールを経て、大サビで『やっと名前を見つけた わたしはわたしの道を進む』と高らかに宣言するカタルシスに、会場はまるで一流アーティストのアンコールのように心震わされる。
毒舌意地悪審査員で知られるサイモンコーウェルをもってしてnextテイラースウィフトと言わしめたGraceは、その後コンテストの階段を一気に駆け上がり優勝。
アメリカではティーンズアワードに出たり、テイラー本人と共演したりと露出は少なくなく、日本にもスッキリ生出演するなどこのランキングの5人の中では最も”売れている”才能だと思われる。
個人的にはnextテイラーなる重すぎる肩書きは無視してw、じっくりホンモノを伝えられる歌手になってほしかったりする。
30、40になっても活躍する息の長い歌手になりますように。
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えー長くなったので残りは第2回に譲ります
part2に続く
『Before Sunrise(恋人までの距離)』 1995年
アメリカ映画 リチャード・リンクレイター監督
映画はかつて遠い存在だった
よほどのヒット作や原作を読んで知っているものしか観ない
挑戦して新たな世界を広げる勇気はなく、ちょっと上品な時間つぶしといったもの
TSUTAYAのレンタルカードの期限も気にしたことなかった僕がこの映画に出会えたのは、まさにジェシーとセリーヌのふたりのような運命的なものだったのかもしれない。
(大好きなシーンのひとつ。ただの電話ごっこだけど、すごく、尊い)
物語はブダペスト発パリ行きの列車から始まる。
アメリカ人新聞記者のジェシー(イーサン・ホーク)は偶然話しかけたセリーヌ(ジュリー・デルピー)に不思議な縁を感じ、パリへ向かう彼女をなんとか説得してウィーンの街で途中下車する。翌朝のアメリカへ発つ飛行機の時間までふたりは一緒に過ごすことになるが、互いの距離は別れの時間が迫るほどに近づいていく…
なにがすごいって、ここに書いたこと以上のことが起こらないところ。
魔法も、恋敵も、逆境も、ない。
そんなある意味”地味”な映画が僕の心をつかんで離さなかったのは、それが必然の連続でひとつのシーンも無駄がない、異なる他者を理解しようとする尊さを描いたものだったからだ。
そもそも二人の境遇はかなり違う。
典型的な東海岸のアメリカ人で、やや軽薄な語り口調の気取り屋。そのくせ恋愛や人生に夢見がちなところがあるジェシー。
知的で英語も堪能なフランス人学生で、年の割に大人びた雰囲気をまといつつも、変に頑固で現実主義な一面も持つセリーヌ。
共通点がなさそうな二人だが、好奇心が旺盛な点は同じだった。
そして今の人生にどこか満足しておらず、その欠落を埋めるなにかを求めていたこと。
自分とまったく違う人とコミュニケーションをとるのは簡単ではないが、互いに内面を少しずつ打ち明けてそれに歩み寄ろうとすれば、案外時間は問題ではないのかもしれない。
目の前の相手の気持ちがはっきりとわからないとき、自分だけが見つめているという思いは強くなる。(特に男はそうだ。)でもそれは相手にとっても同じで、気づかないふりをしていることだって往々にしてある。
こっちを見てほしい、けどこの熱い視線が見つかって欲しくない。誰しも経験したことがあるはずの葛藤が、画面にはウィーンのさまざまな景色と相まって実に美しく映し出される。
二人の距離が、視線が、心が段々と近づいていく。終わりが来るとわかっている、その巻き戻せない一瞬一瞬の輝きが、人生捨てたもんじゃないと思わせる不思議な力を放っているように僕には感じた。
物語終盤、たった一日だけ重なり合った二人は再び違う道を歩み始める。
でも出会う前とは違う人生になっているはず。
新たに上る太陽(Sunrise)は昨日までのそれとは違って見えるだろう。
そんな素敵な出会いを通じて人生を全力で肯定してくれたこの映画こそ
僕が映画好きになったきっかけの一本なのです。
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